スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

24.春雨 一花さん

※食べ物ではない方の春雨がテーマです。
風早×爽子←健人で健人視点。



雪が溶けて、春になる。
冬が終わって、春が来る。
春雨が春を連れて来る。
そんな当たり前のことが――……


『春雨』


「最近雨が多いよね~」

オレはふと、何の気無しに、隣に座る貞子ちゃんに話し掛けた。

「えっ、あ……うん」

窓の方を見ていたから、てっきり天気を考えていたのかと思ったけど、どうやら違ったようだ。

「ん~?風早のことでも考えてた?」
「わわっ、そういうわけではないのだけど……!」

ぼーっとしてました、と貞子ちゃんは顔を赤くして答えた。

「ま、いいんだけどさ。急に話し掛けてごめんね?」
「うっ、ううん!それは全然!……えっと、雨、だよね?」

貞子ちゃんはそう言って、最近の雨についての説明を始める。
この時期に降る雨は『春雨』と言って、『秋雨』と対になる言葉らしい。

「ひと雨ごとに春を連れて来るって言われているんだよ」
「へ~、よく知ってるね~」

オレは素直に感心する。
しとしと、と降り続く雨も、そういう見方をしたら何か楽しいかも、と思う。

「辞書を読むのが割と好きなので」

後に続いた貞子ちゃんの言葉が、おおよそ今時の高校生らしくなくて、ついオレは笑ってしまう。

何かおかしなことを言ったかな、と首を傾げる貞子ちゃんが、貞子ちゃんらしくてまたオレは笑った。

「いーのいーの。貞子ちゃんはそのままでいてよ」


***

ホワイト・デイ。
個別にチョコレートをくれた子達には、相応のお返しを、ばらまくようにもらったチョコレートのお返しのために、袋入りキャンディを用意した。

「はい、これお返しね~」

女の子達に飴を配って回る。

時期的なものもあって、今年用意したのは甘酸っぱい苺味の飴。
新発売のそれは、試しに一つ食べてみたら、割と美味しかった。

「ちょっとケント~、もっといいもんちょうだいよ!」
「あはは~。じゃあ来年はチョコレートも奮発してね☆」

子猫ちゃん達の催促を軽くかわして、ウィンクを送ってその場を後にする。

オレの目下の悩み事は、貞子ちゃんへのお返しについて。

手作りで、超うまいチョコレートをもらったし、お返しをしたいのは山々なんだけど、独占欲の強い彼氏がどうにも気にかかる。
残るものなんてあげたりしたら、それこそ風早キレそうだもんな~、なんて。

ま、いっか。
今年はみんなと同じこの飴をあげることにしよう。
何もしないのもオレの美学に反するし~。


女の子達にお返しを配り終えて教室に戻る。
そのまま帰っても良かったんだけど、また降り出した雨に、置き傘が教室にあるのを思い出したんだ。

すると、教室の扉の窓から貞子ちゃんがちらりと見えた。
これで今日中にホワイト・デイのイベントを終えられる、そう思って教室の扉に手をかけた。

「さ……」

だこちゃん、その呼び掛けは後に続くことはなかった。


――啄むようなキス、を、受け入れる貞子ちゃんの姿が目に映る。

相手はもちろん風早翔太、貞子ちゃんの彼氏だ。
宝物にでも触れるような優しい手つき、愛しげに送るその視線――たまらなくなって、オレはそこから駆け出していた。

昇降口で靴を履き替えると、未だ止まない雨に、傘をどうしようかと思う。
けれど、もう一度教室に戻る勇気はオレにはない。

貞子ちゃんにあげるはずだった飴を口の中に放り込む。
ころり、舌の上で転がるそれは。

「……酸っぱ」

甘さはどこに行ったんだろうってくらいに。


鞄を頭にかざして、雨の中に踏み出した。
生温いはずの雨は冷たくて、冷たくて冷たくて痛かった。

本当に春は来るだろうか、なんてポエマーにでもなったかのように思って、自嘲気味にオレは笑った。

ばしゃばしゃと足元ではねる水が鬱陶しくて、でも、騒々しい雨音は、オレのノイズだらけの心にはちょうど良かった――……



おわり


***

ぎゃー!ベリ企画なのに!
ベリ企画なのに超切ないの書いてしまった……!
すすす、すみません!
皆さんの甘いお話でかすんでくれたらいいな!(切実)


せつない…んだけど!この再度話がすごーーーくステキなんです!
はい続きへ★

「あのね、この間師匠と話していたんだけど」
「三浦?」

2年D組、放課後の教室に二人きり。
爽子の言葉に翔太は眉根を寄せた。

「うん、今降ってるこの雨『春雨』っていうの、知ってる?」
「春雨?食べ物じゃなくて?」

翔太はきょとんと目を丸くして、そんな翔太に爽子はくすくすと笑う。

「風早くんったら、もう。……ひと雨ごとに春を連れて来るって話をね、師匠としていたの」
「……ふぅん。雨なんて鬱陶しいって思ってたけど」

そんなならいいかな、と翔太は言った。

「少しずつ、暖かくなって来たし、春もすぐそこだね」
「……俺は」

「え?」

翔太は爽子に歩み寄ると、その長い髪を一束手に取り口づける。

「かっ、風早くん!?」
「俺にとってはいつだって春だよ」

黒沼に想いが届いてからずっと、そう言うと翔太は、今度は爽子の頬に手をかけた。

爽子はかあっと頬を朱に染める。
二人が付き合い始めたのが学園祭の頃、月日が経って、爽子にも翔太のその先の行動が予想できるようになった。

「……ホワイト・デイだね」
「う、ううう、うん……っ」

「ね、キスしていい?」

翔太が爽子の頬に包むように触れるとき、それはこれからキスをする合図。
爽子は小さくコクリと頷いた。


まさかそのシーンを誰かに見られるなどと、思いもかけない二人は、静かに幸せを噛み締めるのだった。




見たときに本当に感動した!!!
だってせつない話って思ったら風爽サイドからはこんなにも甘くなるんだもん!
どんだけ自分の頭はちっぽけなのか思い知らされた…・!!!
素敵な作品をありがとうございます!!

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。