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それぞれのバレンタイン ③(嬉々さま)

『それぞれのバレンタイン ③』

あやねは廊下を歩いていた。
考え事をしながら。

ちづが今朝言ってた
家庭科の教師の河合ちゃんが
先生達の中に本命がいて
チョコを渡すかもしれないっていう話のことを。

いくら河合ちゃんでも
授業で作ったチョコは
本命にはあげないと思う。
それに教師が
授業で作ったチョコを渡していいものかと
あやねは思うのだ。

あたしだったらそんなことはしない。

あやねが気になっていたのは
河合ちゃんが本命のチョコを
授業中に作ることではなく
先生達の中に
本命がいるのかってこと。

家庭科の教師の河合ちゃんは
先生達の中では1番若く
可愛らしい女の先生だ。

だから生徒達にも
河合先生ではなく
『河合ちゃん』って呼ばれてる。

そんな河合ちゃんが
本命といえるような教師が
うちの学校にいるだろうか?

ピンのことが
ちらっとあやねの頭をかすめた。

ううん。
河合ちゃんに限ってありえない。
あんな奴。

ピンは全然教師らしくないのだ。
オレ様主義で
生徒の競技などで平気で賭けをする。
生徒が喧嘩をしていると知れば
1番にやって来て
止めるどころか
もっとやれと言い出す
そんな奴なのだ。

でも・・・。
たまには教師らしい
大人なことを言ったりもする。

・・・まさかね。

あやねはピンみたいな奴が
大嫌いだった。
教師のくせに
教師らしくなくて
本当に腹の立つ奴だったから。

でもたまに見せる
教師らしい
大人な姿を見せる時は
いつもあやねを
はっとさせてきた。

去年はワイロということで
ピンにチョコを渡していたけど・・・。
今年もまた用意してしまっていた。

「俺の分もしっかり作っとけよ。」
と言われたからという訳ではないのだけれど・・・。

今年もワイロかな。
どうせまた3年生になっても
担任はピンのような気があやねにはしていた。

3年は受験もあるし
いちようワイロとして渡しとくかな。

そんなことを考えながら歩いていたら
あっという間に職員室についてしまった。

職員室のドアをノックし
職員室に入る。

すると河合ちゃんがピンに
チョコを手渡していた。
手作りのチョコ。
家庭科の授業中に作っていたやつだ。

え?!
マジで?!

あやねは自分の目を疑ったが
どうやら見間違いではないらしい。

ピンと河合ちゃんはとても楽しそうに話をしていた。
が、ピンがあやねが職員室に入ってきたのに気づく。

「お、なんだ矢野。
お前も俺にくれるのか。」

そう上機嫌で言うピン。

「誰があんたなんかに。」

そう言いかけたあやねだったが
出かかった言葉をのみこんだ。

河合ちゃんのチョコは
ピンだけでなく
ピンの隣の席の先生達の机の上にもあったのだ。

あやねの視線に気づいた
河合ちゃんが言う。

「あ、このチョコね。
罰ゲームなの。
この間先生方の賭けで負けちゃって
先生方に義理チョコ作ることになっちゃって。
ちょうど調理実習することになってたから
作っちゃったんだけど
みんなには内緒にしといてね。」

と。
あやねは驚いた。
ピンだけでなく河合ちゃんまで賭けをしていたなんて。
なんて学校だろう。

でも不思議とあやねの心はほっとしていた。
なんで?
もしかしてあたし
ピンのこと気にしてた?
まさかね・・・。

あやねのチョコはいつのまにか
ピンが持っていた。

「なんだ、矢野。
このチョコ、ワイロのくせに
結構うまいな。」

なんて言って口にしている。

「ちょ、あんた!
いつの間に!
誰があんたにあげるなんて言った?!」

あやねが言い終わったころには
チョコはすでにピンのお腹の中に納まっていた。

「今度は酒入りのやつな。」

ピンはそんなことを言いながら
にって笑った。

「誰がやるか!」

そう言い返したものの
あやねの心はほんのり温かだった。

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