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tell you(こうざきさま)

風早×爽子
付き合い済。


いつものように額に、次いで頬にとキスを落とされながらも
爽子の心の中には灰色の雲がたちこめていた。
彼のキスはいつだって優しく、あたたかい。
いつもならば一瞬で全身がぽかぽかになる。
だけど、今日はそれだけではなかった。
嬉しさと比例するように、焦りの気持ちも生まれてしまう。
ああ、どうすればいいのだろう。
翔太のシャツの裾を握りながら、爽子は唇が重なり合うのを感じた。
バッグの紐が、まるで爽子を責めるようにずっしりと肩に食い込む。
はやく、はやく。


今日は、日曜日だった。
もしかしたらそれは神様が自分のためにそうしてくれたのかもしれない。
馬鹿らしくも、そう思わずにはいられなかった。
もし今日という日が平日であったのならば、チャンスは少なかったであろう。
それに比べてどうだろう。今日は、日曜日。
チャンスはいくらでもあった。最初から、何度も。
だがそのチャンスをタイミングよく掴む事が爽子には出来ない。
これではせっかくの神様の心遣いを台無しにしてしまうのではないだろうか。
2月14日の、日曜日。
聖バレンタインの記念日を、爽子は翔太と二人で過ごしていた。

始めは、今年こそはと意気込んでいたのだ。
去年、彼への下心たっぷりのチョコレートは、結局渡せず終いだった。
紆余曲折して、そうして晴れて恋人同士になった今。
恋人として過ごすバレンタイン・デーには、勿論手作りチョコレートが用意してある。
雑貨屋でメッセージカードを真剣に選んだり、ラッピングも、家族や友人のものよりも少し豪華にしてみたり。
何より、中身に込めた気持ちが、とても大きい。
去年渡せなかった分もと、爽子はバレンタインに向けて努力をした。それなのに。

「黒沼?」
呼ばれて、爽子は飛びかけていた意識を取り戻した。
鼻が触れる距離に翔太の顔がある。
その表情はどことなく不安そうだったけれど、間近で見つめられ羞恥心にかられた爽子はそれに気がつかない。
「なんか変じゃない?」
「えっ、そそ、そうっ、かなっ!」
「…なんかあったの?言っていいよ」
何かは、ある。
だけどそれを言う事が出来ずに、爽子は大きく首を振った。
翔太はそんな彼女を見て、眉をひそめる。
今日は朝から少しおかしかった。
だけど本人が何も無いと言うのならば、無理に聞き出す事は出来ない。
翔太は、爽子の頬に添えていた手をそこから離す。
触れていた部分の温度が一気に下がる。爽子は翔太の顔をちらりと見た。
目に映ったその寂しそうな顔を見て、焦る気持ちがどんと増える。
いやな思いをさせてしまった。
違う、困らせたい訳じゃなかったのに!
バッグが、また重くなる。
(…はやく…)


思えば、付き合いだしてからは言葉にした事がなかった。
彼に会う度に、声を聞く度に、触れる度に、気持ちは大きくなっていく。
それなのに口に出す事がためらわれた。気持ちが大きくなると同時に。
そういつも言うものでは無いとは思っているけれど、それでも伝えたかったのだ。
あの時から一度も言葉で伝えていない、この気持ちを。
バレンタイン・デー。チョコレートと共に伝えようと、決意していた。

朝、彼に会った時からチャンスは幾度とあった。
玄関前でおはようと挨拶を交わした時、人通りの少ない道を手を繋ぎ歩いている時、静かなカフェでお茶をしている時。
それなのに、渡そうとすればするほど、言おうとすればするほど、体が動かなくなる。
直前までスムーズだった手や唇が、自分のものではないように硬くなってしまうのだ。
時間が経っていくと共に、バッグの中のチョコレートが重くなる。
彼の部屋へ来て、コートを脱ぐ間も無く抱きしめられて、キスをして、爽子の気持ちは益々複雑になった。
とても、とても想っているのに。誰にも負けないくらい、想っているのに。

伝えるというのは、こんなにも難しい。
(…でも)
もう日が傾いている。一緒に過ごせる時間はあと1、2時間だろう。
「あ……かぜ、風早くん…っ」

爽子が口を開く。その声が、小さく震えていた。
もう呼びなれたはずなのに、まるで初めて呼ぶように。
ただ事ではないような爽子の様子に、翔太は目を見開いた。
けれど爽子が何かを伝えようとしてくれているのだと気付き、彼の心は穏やかになる。
たった数秒前までのもやもやとした不安が、既に吹き飛んでいた。
単純な自分をおかしく思いながらも、翔太は爽子の言葉に耳を傾ける。
しどろもどろな彼女を落ち着かせるように、細い指を握った。
「…どした?」
柔らかく微笑んだ翔太を見て、爽子は深呼吸した。
いつの間にか床に落ちていたバッグの中から、桃色の箱を取り出す。
「あの、これ…バレンタインのチョコです」
「……えっ、…ああ!…ありがと!やったぁ」
渡されて、翔太は今日がバレンタインのデートだった事を思い出した。
チョコレートを期待していなかった訳ではない。
だけど爽子の様子に、チョコレートどころではなくなっていた。
だから、このタイミングで渡される事が彼にとっては予想外だったのだ。
当たり前だが、嬉しい。爽子の料理は美味しいし、何より、彼女から貰える事に意義がある。
でも彼女は、これを渡す為にあんなに悩んでいたのだろうか?そうは見えない。
翔太が疑問に思うが、それはすぐに解消される。
チョコレートを渡し第一段階をクリアした爽子は、もう一度深呼吸した。
翔太に握られた指に力をいれる。視線が絡み合う。

「チョコもなんだけど…その、それだけじゃなくて」
「うん?」
「付き合ってからも…私凄く幸せで…毎日幸せで…」
「…うん…」
窓から入る夕日が、二人をあかく染める。
爽子の目に僅かににじみ始めた涙が、光って見えた。
それが溢れて流れる前に、翔太がすくう。
言葉だけなら、軽いのに。それだけじゃない。
込めた気持ちが言葉の中にたくさん詰まって、感情があふれ出す。
すくってもすくっても止まらない涙に、思わず翔太が笑った。
「黒沼」
まるであやすかのように、爽子の耳に優しい声が届く。
「…風早くん」

ああ、ああ
なんて優しいのだろう。
なんて温かいのだろう。
降りてきた二度目のキスに、爽子の心にはもう迷いも焦りも無かった。
ちゃんと、伝えなきゃ。いつも思っている、この気持ちを。
消える事は無い恥ずかしさを隠すように、爽子はゆっくりと翔太の背に腕を回した。
他の誰にも聞こえぬように、彼にだけ届くように、耳元に近づく。
夕日に負けないくらいに真っ赤に染まった顔は、お互いに見えない。
「…すき…だいすき」










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うーーーーわーーーーー!!!!
こうざきさまありがとうございます!
なんだか・・・こういうふんわりとした。
いかにも「君届ワールド」な作品。
すっごく好きです!
序盤の愛おしそうにキスをする風早にそこからもうきゅんきゅんきてました!
なんだろう。
なんだろうこのむずがゆさ!
すっごく素敵で!
純愛っていいなって本当におもいます!
もう本当にありがとうございますーーーWw

はる

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「すき……だいすき」!!!!かーわいいー!爽子かーわいいー!! すみません、テンション高くてww 押し倒しちゃいそうな爽子の可愛さについwww ごちそうさまでございました(*´Д`*)
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